眠気を促す薬
眠気を促す薬
はっきりした原因がなくても、日常生活における人間関係のストレスや生活環境の変化等の様々な要因によって、自律神経系のバランスが崩れ、寝つきが悪い、眠りが浅い、いらいら感、緊張感、精神興奮、精神不安といった精神神経症状を生じることがあります。
また、それらの症状のため十分な休息が取れず、疲労倦怠感、寝不足感、頭重等の身体症状を伴う場合もあります。
催眠鎮静薬は、そのような症状を生じたときに睡眠を促したり、精神のたかぶりを鎮めたりすることを目的に使用される医薬品です。
1. 代表的な配合成分等、主な副作用
① 抗ヒスタミン成分
作用
生体内情報伝達物質であるヒスタミンは、脳の下部にある睡眠・覚醒に関与する部位において、神経細胞の刺激を介して覚醒の維持や調節を行う働きを担っています。
脳内におけるヒスタミン刺激が低下すると眠気が促されます。
ジフェンヒドラミン塩酸塩は、抗ヒスタミン成分の中でもそうした中枢作用が特に強いとされています。
抗ヒスタミン成分を主薬とする催眠鎮静薬は、睡眠改善薬として、一時的な睡眠障害(寝つきが悪い、眠りが浅い)の緩和に用いられるものであり、慢性的に不眠症状がある人や、医療機関において不眠症の診断を受けている人を対象としたものではありません。
なお、医療機関において不眠症の治療のため処方される睡眠薬(医療用医薬品)と区別するため、一般用医薬品では、睡眠改善薬または睡眠補助薬と呼ばれています。
留意事項
(a) 妊婦等における留意事項
妊娠中にしばしば生じる睡眠障害については、ホルモンのバランスや体型の変化等が原因であり、睡眠改善薬の適用対象ではありません。
妊婦または妊娠していると思われる女性では、睡眠改善薬の使用は避けることとされています。
(b) 小児等における留意事項
小児および若年者では、抗ヒスタミンの成分により、眠気とは反対の神経過敏や中枢興奮などが現れることがあります。
特に15歳未満の小児ではそうした副作用が起きやすいため、抗ヒスタミン成分を含有する睡眠改善薬の使用は避けることとされています。
(c) その他の留意点
抗ヒスタミン成分を含有する医薬品の服用後は、自動車の運転等、危険を伴う機械の操作に従事してはなりません。
睡眠改善薬の場合、目が覚めた後も、注意力の低下や寝ぼけ様症状、判断力の低下等の一時的な意識障害、めまい、倦怠感を起こすことがあるので注意する必要があります。
翌日まで眠気やだるさを感じるときには、それらの症状が消失するまで自動車の運転等、危険を伴う機械の操作は避けることとされています。
なお、睡眠改善薬に限らず、抗ヒスタミン成分を含む医薬品(例:アレルギー用薬)では、眠気の副作用に注意が必要です。
② ブロモバレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素
作用
いずれも脳の興奮を抑え、痛覚を鈍くする作用があります。
留意事項
(a) 眠気
少量でも眠気を催しやすく、それにより重大な事故を招くおそれがあるため、これらの成分が配合された医薬品を使用した後は、乗物や危険を伴う機械類の運転操作は避ける必要があります。
(b) 薬物依存
反復して摂取すると依存を生じることが知られています。また、これらの成分が配合された医薬品は、本来の目的から逸脱した使用(乱用)がなされることがあり留意が必要です。
(c) 自殺
不眠や不安の症状はうつ病に起因して生じる場合もあり、また、うつ病患者はときに自殺行動を起こすことがあります。
なお、かつては不眠症や不安緊張状態の鎮静を目的にブロモバレリル尿素が頻繁に用いられていましたが、ブロモバレリル尿素の大量摂取による自殺が日本で社会問題になったことや、ベンゾジアゼピン系成分にその役割が取って代わられたことから、近年は使用量が減少しています。
なお、ベンゾジアゼピン系成分は、医療用医薬品の抗不安薬、催眠薬、抗痙攣薬、筋弛緩薬として用いられています。
(d) 胎児への影響
ブロモバレリル尿素は、胎児に障害を引き起こす可能性があるため、妊婦または妊娠していると思われる女性は使用を避けるべきとされています。
③ 生薬成分
神経の興奮・緊張緩和を期待してチョウトウコウ、サンソウニン、カノコソウ、チャボトケイソウ、ホップ等の生薬成分が複数配合されている製品があります。
生薬成分のみからなる鎮静薬であっても、複数の鎮静薬の併用や、長期連用は避けるべきです。
生薬成分の種類と概要
| 生薬名 | 基原 |
|---|---|
| チョウトウコウ | アカネ科のカギカズラ、Uncaria sinensis Haviland または Uncaria macrophylla Wallich の通例とげを基原とする生薬である。 |
| サンソウニン | クロウメモドキ科のサネブトナツメの種子を基原とする生薬である。 |
| カノコソウ(別名:キッソウコン) | オミナエシ科のカノコソウの根および根茎を基原とする生薬である。 |
| チャボトケイソウ(別名:パッシフローラ) | 南米原産のトケイソウ科の植物で、その開花期における茎および葉が薬用部位となる。 |
| ホップ | ヨーロッパ南部から西アジアを原産とするアサ科のホップの成熟した球果状の果穂が薬用部位となる。 |
2. 漢方処方製剤
神経質、精神不安、不眠等の症状の改善を目的とした漢方処方製剤としては、酸棗仁湯、加味帰脾湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯等があります。
これらの漢方処方製剤は症状の原因となる体質の改善を主眼としているため、いずれの処方も比較的長期間(1ヶ月位)服用されることが多くあります。
なお、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯については、小児の癇癪や夜泣きにも用いられます。
漢方処方製剤の種類と概要
酸棗仁湯
- 体力中等度以下で、心身が疲れ、精神不安、不眠などがあるものの不眠症、神経症に適すとされる。
- 胃腸が弱い人、下痢または下痢傾向のある人では、消化器系の副作用(悪心、食欲不振、胃部不快感等)が現れやすい等、不向きとされる。
- 1週間位服用して症状の改善がみられない場合には漫然と服用を継続せず、医療機関を受診するなどの対応が必要である。
- 構成生薬としてカンゾウを含む。
加味帰脾湯
- 体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うものの貧血、不眠症、精神不安、神経症に適すとされる。
- 構成生薬としてカンゾウを含む。
抑肝散
- 体力中等度を目安として、神経がたかぶり、怒りやすい、いらいらなどがあるものの神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、歯ぎしり、更年期障害、血の道症に適すとされる。
- 心不全を引き起こす可能性があるため、動くと息が苦しい、疲れやすい、足がむくむ、急に体重が増えた場合は直ちに医師の診療を受けるべきである。
- 構成生薬としてカンゾウを含む。
抑肝散加陳皮半夏
- 体力中等度を目安として、やや消化器が弱く、神経がたかぶり、怒りやすい、いらいらなどがあるものの神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、更年期障害、血の道症、歯ぎしりに適すとされる。
- 構成生薬としてカンゾウを含む。
柴胡加竜骨牡蛎湯
- 体力中等度以上で、精神不安があって、動悸、不眠、便秘などを伴う高血圧の随伴症状(動悸、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、小児夜泣き、便秘に適すとされる。
- 体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)、胃腸が弱く下痢しやすい人、瀉下薬(下剤)を服用している人では、腹痛、激しい腹痛を伴う下痢の副作用が現れやすい等、不向きとされる。
- 重篤な副作用として、まれに肝機能障害、間質性肺炎を生じることが知られている。
- 構成生薬としてダイオウを含む。
桂枝加竜骨牡蛎湯
- 体力中等度以下で、疲れやすく、神経過敏で、興奮しやすいものの神経質、不眠症、小児夜泣き、夜尿症、眼精疲労、神経症に適すとされる。
- 構成生薬としてカンゾウを含む。
小建中湯
- 体力虚弱で疲れやすく、腹痛、血色すぐれず、動悸、足のほてり、冷え、寝汗、鼻血に適すとされる。
3. 相互作用、受診勧奨等
① 相互作用
概要
ジフェンヒドラミン塩酸塩、ブロモバレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素は、催眠鎮静薬以外の一般用医薬品や医療用医薬品にも配合されていることがあります。これらの成分を含有する医薬品と他の催眠鎮静薬が併用されると、効き目や副作用が増強されるおそれがあります。
不眠症等の診断を受けている場合
医療機関で不眠症(睡眠障害)、不安症、神経症等の診断がなされ、治療(薬物治療以外の治療を含む。)を受けている患者が、一般用医薬品の催眠鎮静薬を自己判断で使用すると、医師による治療を妨げるおそれがあり、使用を避ける必要があります。
寝酒
寝つきが悪いときの処置としてアルコールが摂取される(いわゆる「寝酒」)ことがありますが、飲酒とともにジフェンヒドラミン塩酸塩、ブロモバレリル尿素またはアリルイソプロピルアセチル尿素を含む催眠鎮静薬を服用すると、その薬効や副作用が増強されるおそれがあるため、服用時には飲酒を避ける必要があります。
なお、生薬成分のみからなる鎮静薬や漢方処方製剤の場合は、飲酒を避けることとはなっていませんが、アルコールが睡眠の質を低下させ、医薬品の効果を妨げることがあります。
ハーブ
カノコソウ、サンソウニン、チャボトケイソウ、ホップ等を含む製品は、医薬品的な効能効果が標榜または暗示されていなければ食品(ハーブ等)として流通可能ですが、それら成分または他の鎮静作用があるとされるハーブ(セントジョーンズワート等)を含む食品を併せて摂取すると、医薬品の薬効が増強、減弱したり、副作用のリスクが高まったりすることがあります。
② 受診勧奨等
一般用医薬品で対処できる範囲
基本的に、不眠に対して、一般用医薬品で対処することが可能であるのは、特段の基礎疾患がない人における、ストレス、疲労、時差ぼけ等の睡眠リズムの乱れが原因の一時的な不眠や寝つきが悪い場合です。
一般用医薬品で対処できない場合
以下の症状が慢性的に続いている場合は、うつ病等の精神神経疾患や、何らかの身体疾患に起因する不眠、または催眠鎮静薬の使いすぎによる不眠等の可能性も考えられるため、医療機関を受診させるなどの対応が必要です。
- 寝ようとして床に入ってもなかなか寝つけない(入眠障害)
- 睡眠時間を十分取ったつもりでもぐっすり眠った感じがしない(熟眠障害)
- 睡眠時間中に何度も目が覚めてしまい、再び寝つくのが難しい(中途覚醒)
- まだ眠りたいのに早く目が覚めてしまって寝つけない(早朝覚醒)等
ブロモバレリル尿素の大量摂取・薬物依存への対応
ブロモバレリル尿素等の鎮静成分を大量摂取したときの応急処置等は、通常の使用状況における場合とは異なり、高度な専門的判断を必要とします。
関係機関の専門家に相談する、昏睡や呼吸抑制が起きているようであれば直ちに救命救急が可能な医療機関に連れて行く等の対応を取ることができるよう、十分な説明がなされるべきです。
また、ブロモバレリル尿素等の反復摂取によって薬物依存の状態になっている場合は、自己の努力のみで依存からの離脱を図ることは困難で、医療機関での診療が必要です。