腸の薬1
腸の不調
腸における消化、栄養成分や水分の吸収が正常に行われなかったり、腸管がその内容物を送り出す運動に異常が生じると、便秘や軟便、下痢といった症状が現れます。
水分の吸収は大半が小腸で行われます。大腸では腸内容物が糞便となる過程で適切な水分量に調整がなされますが、糞便には、腸内細菌の活動によって生じる物質や腸内細菌自体およびその死骸が多く含まれ、それらも便通や糞便の質に影響を与えます。
腸の働きは自律神経系により制御されており、異常を生じる要因は腸自体やその内容物によるものだけでなく、腸以外の病気等が自律神経系を介して腸の働きに異常を生じさせる場合もあります。
1. 下痢
下痢が起こる主な要因としては、以下のようなものがあります。
- 急性の下痢:体の冷えや消化不良、細菌やウイルス等の消化器感染(食中毒など)、緊張等の精神的なストレスによるもの
- 慢性の下痢:腸自体に病変を生じている可能性
2. 便秘
便秘が起こる主な要因としては、以下のようなものがあります。
- 一過性の便秘:環境変化等のストレスや医薬品の副作用など
- 慢性の便秘:加齢や病気による腸の働きの低下、便意を繰り返し我慢し続けること等による腸管の感受性の低下など
なお、下痢や便秘の要因が重なり合って、下痢と便秘が繰り返し現れる場合もあります。
3. 腸の薬の種類
① 整腸薬
整腸薬は、腸の調子や便通を整える(整腸)、腹部膨満感、軟便、便秘に用いられることを目的とする医薬品です。
その配合成分としては、腸内細菌の数やバランスに影響を与えたり、腸の活動を促す成分が主として用いられます。
② 止瀉薬
止瀉薬は、下痢、食あたり、吐き下し、水あたり、下り腹、軟便等に用いられること(止瀉)を目的とする医薬品です。なお、「瀉」は、”お腹を下す”という意味になります。
その配合成分としては、腸やその機能に直接働きかけるもののほか、腸管内の環境を整えて腸に対する悪影響を減らすことによる効果を期待するものもあります。
③ 瀉下薬
瀉下薬(下剤)は、便秘症状および便秘に伴う肌荒れ、頭重、のぼせ、吹き出物、食欲不振、腹部膨満、腸内異常発酵、痔の症状の緩和、または腸内容物の排除に用いられること(瀉下)を目的とする医薬品です。
その配合成分としては、腸管を直接刺激するもの、腸内細菌の働きによって生成した物質が腸管を刺激するもの、糞便のかさや水分量を増すもの等があります。
医薬部外品について
整腸薬、瀉下薬では、医薬部外品として製造販売されている製品もありますが、それらは人体に対する作用が緩和なものとして、配合できる成分(瀉下薬では、糞便のかさや水分量を増すことにより作用する成分に限られる)やその上限量が定められています。
また、効能・効果の範囲も限定され、例えば、下痢・便秘の繰り返し等の場合における整腸については、医薬品においてのみ認められています。
4. 整腸成分
生菌成分
腸内細菌のバランスを整えることを目的として、ビフィズス菌、アシドフィルス菌、ラクトミン、乳酸菌、酪酸菌等の生菌成分が用いられます。
生薬成分
次のような生薬成分が、整腸作用を期待して配合されている場合があります。
生薬成分の種類と概要
| 生薬名 | 基原・概要 |
|---|---|
| ケツメイシ | マメ科のエビスグサまたは Cassia tora Linné の種子を基原とする生薬である。日本薬局方収載のケツメイシは、煎薬として整腸(便通を整える)、腹部膨満感等に用いられる。 |
| ゲンノショウコ | フウロソウ科のゲンノショウコの地上部を基原とする生薬である。日本薬局方収載のゲンノショウコは、煎薬として整腸(便通を整える)、腹部膨満感等に用いられる。 |
| アセンヤク | アカネ科の Uncaria gambir Roxburgh の葉および若枝から得た水製乾燥エキスを基原とする生薬である。 |
トリメブチン(トリメブチンマレイン酸塩)
① 作用
トリメブチンマレイン酸塩は、消化管(胃および腸)の平滑筋に直接作用して、消化管の運動を調整する作用(消化管運動が低下しているときは亢進的に、運動が亢進しているときは抑制的に働く。)があるとされています。
② 留意事項
まれに重篤な副作用として肝機能障害を生じることがあります。肝臓病の診断を受けた人では、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師または処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきです。
5. 止瀉成分
① 収斂成分
作用
腸粘膜のタンパク質と結合して不溶性の膜を形成し、腸粘膜をひきしめる(収斂)ことにより、腸粘膜を保護することを目的として、以下の成分が配合されている場合があります。
- 次没食子酸ビスマス、次硝酸ビスマス等のビスマスを含む成分
- タンニン酸アルブミン等
タンニン酸アルブミンに含まれるタンニン酸やその類似の物質を含む生薬成分としてゴバイシ、オウバク、オウレン等も用いられます。
ビスマスを含む成分は収斂作用のほか、腸内で発生した有毒物質を分解する作用も持つとされます。オウバク、オウレンは、収斂作用のほか、抗菌作用、抗炎症作用も期待して用いられます。
生薬成分の概要:ゴバイシ ウルシ科のヌルデの若芽や葉上にアブラムシ科のヌルデシロアブラムシが寄生し、その刺激によって葉上に生成した虫こぶ(葉に虫が寄生してこぶ状に膨らんだもの)を基原とする生薬である。
留意事項
(a) 収斂成分に共通するもの
収斂成分を主体とする止瀉薬は、細菌性の下痢や食中毒のときに使用して腸の運動を鎮めると、かえって状態を悪化させるおそれがあります。急性の激しい下痢または腹痛・腹部膨満・吐きけ等の症状を伴う人では、細菌性の下痢や食中毒が疑われるため、安易な使用を避けることが望ましいとされています。
(b) ビスマスに関するもの
次没食子酸ビスマス、次硝酸ビスマス等のビスマスを含む成分については、次のような留意事項があります。
- 海外において長期連用した場合に精神神経症状(不安、記憶力減退、注意力低下、頭痛等)が現れたとの報告があり、1週間以上継続して使用しないこととされている。
- アルコールと一緒に摂取されると、循環血液中への移行が高まって精神神経症状を生じるおそれがあり、服用時は飲酒を避ける必要がある。
- 胃潰瘍や十二指腸潰瘍の診断を受けた人では、損傷した粘膜からビスマスの吸収が高まるおそれがあるため、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師または処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。
- 循環血液中に移行したビスマスは血液胎盤関門を通過することが知られており、妊婦または妊娠していると思われる女性では使用を避けるべきである。
(c) タンニン酸アルブミンに関するもの
タンニン酸アルブミンについては、まれに重篤な副作用として**ショック(アナフィラキシー)**を生じることがあります。タンニン酸アルブミンに含まれるアルブミンは、牛乳に含まれるタンパク質(カゼイン)から精製された成分であるため、牛乳にアレルギーがある人では使用を避ける必要があります。
② ロペラミド塩酸塩
作用
ロペラミド塩酸塩が配合された止瀉薬は、食べすぎ・飲みすぎによる下痢、寝冷えによる下痢の症状に用いられることを目的としており、食あたりや水あたりによる下痢については適用対象ではありません。
留意事項
ロペラミド塩酸塩が配合された止瀉薬では、次のような留意事項があります。
- 発熱を伴う下痢や血便のある場合または粘液便が続くような場合は、本剤の適用対象でない可能性があり、症状の悪化、治療期間の延長を招くおそれがあるため、安易な使用は避けるべきである。
- 本成分を含む一般用医薬品では、15歳未満の小児には適用がない(理由:外国で乳幼児が過量摂取した場合に、中枢神経系障害、呼吸抑制、腸管壊死に至る麻痺性イレウスを起こしたとの報告があるため)。
- 使用は短期間にとどめ、2〜3日間使用しても症状の改善がみられない場合には、医師の診療を受けるなどの対応が必要である。
- 腸管の運動を低下させる作用を示し、胃腸鎮痛鎮痙薬との併用は避ける必要がある。また、水分や電解質の分泌を抑える作用もあるとされる。
- 効き目が強すぎて便秘が現れることがあり、まれに重篤な副作用としてイレウス様症状を生じることもある。
- 便秘を避けなければならない肛門疾患がある人では、使用を避けるべきである。
- 重篤な副作用として、まれにショック(アナフィラキシー)、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死融解症を生じることがある。
- 中枢神経系を抑制する作用もあり、副作用としてめまいや眠気が現れることがあるため、乗物または機械類の運転操作を避ける必要がある。
- 中枢抑制作用が増強するおそれがあるため、服用時は飲酒しないこととされている。
- 吸収された成分の一部が乳汁中に移行することが知られており、母乳を与える女性では使用を避けるか、または使用期間中の授乳を避けるべきである。
③ 腸内殺菌成分
作用
細菌感染による下痢の症状を鎮めることを目的として、ベルベリン塩化物、タンニン酸ベルベリン、アクリノール等が用いられます。
これらは、通常の腸管内に生息する腸内細菌に対しても抗菌作用を示しますが、ブドウ球菌や大腸菌などに対する抗菌作用の方が優位であることと、下痢状態では腸内細菌のバランスが乱れている場合が多いため、結果的に腸内細菌のバランスを正常に近づけることにつながると考えられています。
服用方法
腸内殺菌成分の配合された止瀉薬を、下痢の予防で服用したり、症状が治まったのに漫然と服用したりすると、腸内細菌のバランスを崩し、腸内環境を悪化させることがあります。そのため、あくまで下痢の症状がある時、その症状を改善する必要のある間のみの服用にとどめるべきです。
ベルベリンについて
ベルベリン塩化物、タンニン酸ベルベリンに含まれるベルベリンは、生薬のオウバクやオウレンの中に存在する物質の一つであり、抗菌作用のほか、抗炎症作用も併せ持つとされます。
オウバクのエキス製剤は、苦味による健胃作用よりも、ベルベリンによる止瀉作用を期待して、消化不良による下痢、食あたり、吐き下し、水あたり、下り腹、軟便等の症状に用いられます。
タンニン酸ベルベリンは、タンニン酸(収斂作用)とベルベリン(抗菌作用)の化合物であり、消化管内ではタンニン酸とベルベリンに分かれて、それぞれ止瀉に働くことを期待して用いられます。
④ 吸着成分
腸管内の異常発酵等によって生じた有害な物質を吸着させることを目的として、以下の成分が配合されている場合があります。
- 炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸水素カルシウム
- 天然ケイ酸アルミニウム、ヒドロキシナフトエ酸アルミニウム 等
同様の作用を期待して、カオリンや薬用炭などの生薬成分も用いられます。
⑤ 生薬成分(木クレオソート)
木クレオソートは、過剰な腸管の(蠕動)運動を正常化し、あわせて水分や電解質の分泌も抑える止瀉作用があります。また、歯に使用の場合、局所麻酔作用もあるとされます。
なお、医薬品として使用されるクレオソートは、木材を原料とする木クレオソートです。石炭を原料とする石炭クレオソートは発がん性のおそれがあり、医薬品として使用できません。