胃腸鎮痛鎮痙薬

2026年7月29日

1. 抗コリン成分

1. 作用

急な胃腸の痛みは、主として胃腸の過剰な動き(痙攣)によって生じます。副交感神経系の刺激によって消化管運動が亢進し、また、胃液分泌の亢進にも働きます。

そのため、副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンと受容体の反応を妨げることで、その働きを抑える成分(抗コリン成分)が、胃痛、腹痛、さしこみ(疝痛、癪)を鎮めること(鎮痛鎮痙)のほか、胃酸過多や胸やけに対する効果も期待して用いられます。

※疝痛とは発作性の間欠的な痛み、癪とは胸部や腹部に生じる激しい痛みの通俗的な総称です。

胃腸鎮痛鎮痙薬に配合される抗コリン成分としては、以下のようなものがあります。

  • メチルベナクチジウム臭化物
  • ブチルスコポラミン臭化物
  • メチルオクタトロピン臭化物
  • ジサイクロミン塩酸塩
  • オキシフェンサイクリミン塩酸塩
  • チキジウム臭化物 等

抗コリン作用を示すアルカロイドを豊富に含む生薬成分として、ロートエキスが用いられることも多くあります。

※アルカロイドとは、主に植物由来のアルカリ性化合物の総称で、一部に中性や弱酸性を示すものもあります。


2. 留意事項

① 抗コリン成分とロートエキスに共通する留意事項

抗コリン成分やロートエキスが副交感神経系の働きを抑える作用は、消化管に限定されないため、散瞳による目のかすみや異常なまぶしさ、顔のほてり、頭痛、眠気、口渇、便秘、排尿困難等の副作用が現れることがあるため次のような注意が必要です。

  • 重大な事故につながるおそれがあるため、抗コリン成分が配合された医薬品を使用した後は、乗物または機械類の運転操作を避ける必要がある。
  • 排尿困難の症状がある人、心臓病または緑内障の診断を受けた人では、症状の悪化を招くおそれがあり、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師または処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。
  • 高齢者では、排尿困難や緑内障の基礎疾患を持つ場合が多く、また、一般的に口渇や便秘の副作用が現れやすいので、使用する前にその適否を十分考慮し、使用する場合にはこれらの初期症状等に常に留意する等、慎重な使用がなされることが重要である。

② ショック(アナフィラキシー)

ブチルスコポラミン臭化物については、まれに重篤な副作用としてショック(アナフィラキシー)を生じることが知られています。

③ 母乳への移行

ロートエキスについては、吸収された成分の一部が母乳中に移行して乳児の脈が速くなる(頻脈)おそれがあるため、母乳を与える女性では使用を避けるか、または使用期間中の授乳を避ける必要があります。

メチルオクタトロピン臭化物についても、吸収された成分の一部が母乳中に移行することが知られています。

④ 母乳の分泌抑制

ロートエキスにより母乳が出にくくなることがあります。


2. パパベリン塩酸塩

1. 作用

パパベリン塩酸塩は、消化管の平滑筋に直接働いて胃腸の痙攣を鎮める作用を示すとされます。抗コリン成分と異なり、胃液分泌を抑える作用は見出されません

2. 留意事項

抗コリン成分と異なり自律神経系を介した作用ではありませんが、眼圧を上昇させる作用を示すことが知られています。

緑内障の診断を受けた人では、症状の悪化を招くおそれがあり、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師または処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきです。


3. 局所麻酔成分

1. 作用

消化管の粘膜および平滑筋に対する麻酔作用による鎮痛鎮痙の効果を期待して、アミノ安息香酸エチル、オキセサゼインのような局所麻酔成分が配合されている場合があります。

オキセサゼインについては、局所麻酔作用のほか、胃液分泌を抑える作用もあるとされ、胃腸鎮痛鎮痙薬と制酸薬の両方の目的で使用されます。

2. 留意事項

いずれの局所麻酔成分も痛みが感じにくくなることで重大な消化器疾患や状態の悪化等を見過ごすおそれがあり、長期間にわたって漫然と使用することは避けることとされています。

アミノ安息香酸エチルについては、メトヘモグロビン血症を起こすおそれがあるため、6歳未満の小児への使用は避ける必要があります。

【メトヘモグロビン血症】 赤血球中のヘモグロビンの一部がメトヘモグロビンに変化して、赤血球の酸素運搬能力が低下し、貧血症状を呈する病気です。正常な赤血球では、メトヘモグロビンの割合はヘモグロビン全体の1%以下に維持されていますが、メトヘモグロビン血症では10%以上になります。

オキセサゼインについては、精神神経系の副作用として、頭痛、眠気、めまい、脱力感が現れることがあります。また、妊娠中や小児における安全性は確立されておらず、妊婦または妊娠していると思われる女性、15歳未満の小児では、使用を避けることとされています。


4. 生薬成分

鎮痛鎮痙作用を期待して、エンゴサク、シャクヤク等が配合されている場合があります。

生薬成分の概要

生薬名基原
エンゴサクケシ科の Corydalis turtschaninovii Besser forma yanhusuo Y.H. Chou et C.C. Hsu の塊茎を、通例、湯通ししたものを基原とする生薬である。

5. 相互作用

① 複数の胃腸鎮痛鎮痙薬の併用

胃腸鎮痛鎮痙薬に配合されている成分は、胃腸以外に対する作用も示すものがほとんどです。

複数の胃腸鎮痛鎮痙薬が併用された場合、泌尿器系や循環器系、精神神経系などに対する作用(副作用)が現れやすくなるため、胃腸鎮痛鎮痙薬を使用している間は、他の胃腸鎮痛鎮痙薬の使用を避けることとされています。

② 抗コリン作用の重複

抗コリン成分については、胃腸鎮痛鎮痙薬以外の医薬品(かぜ薬、乗物酔い防止薬、鼻炎用内服薬等)にも配合されている場合があります。また、一部の抗ヒスタミン成分のように抗コリン作用を併せ持つものが配合されている場合(かぜ薬、睡眠改善薬、乗物酔い防止薬、鎮咳去痰薬、アレルギー用薬等)もあります。

抗コリン作用を有する成分を含有する医薬品どうしが併用された場合、抗コリン作用が増強され、排尿困難、目のかすみや異常なまぶしさ、頭痛、眠気、口渇、便秘等の副作用が現れやすくなります。


7. 受診勧奨

痛みが次第に強くなる、痛みが周期的に現れる、嘔吐や発熱を伴う、下痢や血便・血尿を伴う、原因不明の痛みが30分以上続く等の場合には、基本的に医療機関を受診するなどの対応が必要です。

その際、医師の診療を受けるまでの当座の対処として一般用医薬品が使用されると、痛みの発生部位が不明確となり、原因の特定を困難にすることがあるので、原因不明の腹痛に安易に胃腸鎮痛鎮痙薬を使用することは好ましくありません。

① 胃腸以外に起因する腹痛

腹部の痛みは必ずしも胃腸に生じたものとは限らず、月経困難症、胆嚢炎、胆管炎、胆石症、急性膵炎などのように、胃腸以外の臓器に起因する場合があります。また、血尿を伴って側腹部に痛みが生じた時は、腎臓や尿路の病気が疑われます。これらについて胃腸鎮痛鎮痙薬を使用することは適当ではありません。

② 胃腸に起因する腹痛

(a) 下痢を伴うもの

下痢に伴う腹痛については、基本的に下痢への対処が優先され、胃腸鎮痛鎮痙薬の適用となる症状ではありません。

(b) 下痢を伴わないもの

下痢を伴わずに腹部に痛みを生じる病気として、腸閉塞、アニサキス症などがあります。

なお、アニサキスは海洋動物を宿主とする寄生虫の一種で、魚の生食によりヒトの消化管に入り、胃腸粘膜にくい込んで腹痛(嘔吐を伴う)を引き起こします。

③ 自律神経系の乱れに起因する腹痛

小児では、内臓に異常がないにもかかわらず、へその周りに激しい痛み(ときに吐きけを伴う)が繰り返し現れることがあります。

これを反復性臍疝痛といい、精神的なストレスによる自律神経系の乱れが主な原因と考えられています。

数時間以内に自然寛解する場合が多いですが、長時間、頻回に腹痛を訴えるような場合には、医療機関に連れて行くなどの対応が必要です。

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