薬の働く仕組み1

2026年7月30日

医薬品の人体における作用

1. 全身作用と局所作用

医薬品の作用には、有効成分が消化管などから吸収されて循環血液中に移行して全身を巡って薬効をもたらす全身作用と、特定の狭い身体部位において薬効をもたらす局所作用とがあります。

内服した医薬品が全身作用を現わすまでには、消化管からの吸収、代謝と作用部位への分布という過程を経るため、ある程度の時間が必要であるのに対し、局所作用は、医薬品の適用部位が作用部位である場合が多いため、反応は比較的速やかに現れます。

① 内服薬の作用

内服薬(いわゆる飲み薬)は、全身作用を示すものが多いといえます。しかし、内服薬であっても膨潤性下剤や生菌製剤等のように、有効成分が消化管内で作用する場合は局所作用です。

また、胃腸に作用する薬であっても、有効成分が循環血液中に入ってから薬効をもたらす場合には、その作用は全身作用の一部であることに注意が必要です。

② 外用薬の作用

外用薬(皮膚や粘膜に適用する薬)では、多くの場合、適用部位に対する局所的な効果を目的としていますが、坐剤、経皮吸収製剤等のように、適用部位から吸収された有効成分が、循環血液中に移行して全身作用を示すことを目的として設計されたものも存在します。


2. 医薬品の副作用

副作用についても、全身作用によるものと局所作用によるものがあります。

局所作用を目的とする医薬品によって全身性の副作用が生じたり、逆に、全身作用を目的とする医薬品で局所的な副作用が生じることもあります。


3. 有効成分の吸収

① 有効成分の吸収

全身作用を目的とする医薬品では、その有効成分が消化管等から吸収されて、循環血液中に移行することが不可欠です。

なお、循環血液中に移行せずに薬効を発揮する医薬品であっても、その成分が体内から消失する過程では、吸収されて循環血液中に移行する場合があります。

局所作用を目的とする医薬品の場合は、目的とする局所の組織に有効成分が浸透して作用するものが多くあります。

② 消化管吸収

内服薬のほとんどは、その有効成分が消化管から吸収されて循環血液中に移行し、全身作用を現します。

錠剤、カプセル剤等の固形剤では、消化管で吸収される前に錠剤等が消化管内で崩壊して、有効成分が溶け出さなければならないのですが、多くの場合、で有効成分が溶出します(腸溶性製剤のような特殊な固形剤を除く)。

内服薬の中には、服用後の作用を持続させるため、有効成分がゆっくりと溶出するように作られているもの(徐放性製剤)もあります。有効成分は主に小腸で吸収されます。

一般に、消化管からの吸収は、濃度の高い方から低い方へ受動的に拡散していく現象です。

消化管の内容物や他の医薬品の作用によって有効成分の吸収量や吸収速度は影響を受け、また、有効成分によっては消化管の粘膜に障害を起こすものもあるため、食事の時間と服用の時期の関係について、各医薬品の用法に定められています。

全身作用を目的としない内服薬は、本来、有効成分が消化管から吸収されて薬効を発揮するわけではなく、有効成分はそのまま糞便中に排泄されることになります。しかし、中には消化管内を通過する間に結果的に吸収されてしまうものがあり、その場合、循環血液中に移行した有効成分によって**好ましくない作用(副作用)**を生じることがあります。

③ 内服以外の用法における粘膜からの吸収

内服以外の用法で使用される医薬品には、適用部位から有効成分を吸収させて、全身作用を発揮させることを目的とするものがあります。

坐剤】
坐剤は、肛門から挿入すると直腸内で溶解して、直腸内壁の粘膜から有効成分が吸収されます。直腸内壁の粘膜は薄く、その下を静脈が豊富に分布して通っているため、有効成分が容易に吸収され循環血液中に入りやすく、内服の場合よりも全身作用が速やかに現れます

また、口に含むため内服と混同されやすいのですが、**抗狭心症薬のニトログリセリン(舌下錠、スプレー)や禁煙補助薬のニコチン(咀嚼剤)**のように、有効成分が口腔粘膜から吸収されて全身作用を現すものもあります。

これらの部位を通っている静脈血は、肝臓を経由せずに心臓に至るため、吸収されて循環血液中に入った成分は、初めに肝臓で代謝を受けることなく全身に分布します。ただし、坐剤であっても、直腸上部から有効成分が吸収されると、肝臓で代謝を受け、全身へ分布する有効成分の量が少なくなってしまいます。

医薬品によっては適用部位の粘膜に刺激などの局所的な副作用を生じることがあります。そのような副作用を避けるため、また、有効成分の急激な吸収による全身性の副作用を回避する観点からも、粘膜に障害を起こしているときは使用を避けるべきです。

点鼻薬】
一般用医薬品では、全身作用を目的とする点鼻薬はなく、いずれの医薬品も鼻腔粘膜への局所作用を目的として用いられています。

ただし、鼻腔粘膜の下には毛細血管が豊富なため、点鼻薬の成分が循環血液中に移行しやすく、また、初めに肝臓で代謝を受けることなく全身に分布するため、全身性の副作用を生じることがあります。

点眼薬・含嗽薬(うがい薬)】
眼の粘膜に適用する点眼薬は、鼻涙管を通って鼻粘膜から吸収されることがあります。初めに肝臓で代謝を受けることなく眼以外の部位に到達して副作用を起こすことがあるため、場合によっては点眼する際に目頭の鼻涙管の部分を押さえ、有効成分が鼻に流れるのを防ぐ必要があります。

咽頭の粘膜に適用する含嗽薬(うがい薬)等の場合は、その多くが唾液や粘液によって食道へ流れてしまうため、咽頭粘膜からの吸収が原因で全身的な副作用が起こることは少なくなります。

しかし、アレルギー反応は微量の抗原でも生じるため、点眼薬や含嗽薬(うがい薬)等でも**ショック(アナフィラキシー)**等のアレルギー性の副作用を生じることがあります。

④ 皮膚吸収

皮膚に適用する医薬品(塗り薬、貼り薬等)は、適用部位に対する局所的な効果を目的とするものがほとんどです。

殺菌消毒薬等のように、有効成分が皮膚の表面で作用するものもありますが、有効成分が皮膚から浸透して体内の組織で作用する医薬品の場合は、浸透する量は皮膚の状態、傷の有無やその程度などによって影響を受けます。例えば、加齢等により皮膚のみずみずしさが低下すると、有効成分が浸潤・拡散しにくくなります。

通常は、皮膚表面から循環血液中へ移行する量は比較的少ないですが、血液中に移行した有効成分は、肝臓で代謝を受ける前に血流に乗って全身に分布するため、適用部位の面積(使用量)や使用回数、その頻度などによっては、全身作用が現れることがあります。

また、アレルギー性の副作用は、適用部位以外にも現れることがあります。


4. 薬の代謝・排泄

① 薬の代謝と排泄

代謝とは、物質が体内で化学的に変化することです。

有効成分は、循環血液中へ移行して体内を循環するうちに徐々に代謝を受けて、分解されたり、体内の他の物質が結合するなどして構造が変化し、その結果作用を失ったり(不活性化)、作用が現れたり(代謝的活性化)、あるいは体外へ排泄されやすい水溶性の物質に変化します。

排泄とは、代謝によって生じた物質(代謝物)が尿等で体外へ排出されることです。有効成分は、未変化体のまま、あるいは代謝物として体外へ排泄されます。

排泄の経路には、腎臓から尿中へ、肝臓から胆汁中へ(糞便として排泄)、肺から呼気中へなどがあります。そのほか、汗や母乳として排泄される場合もありますが、体内からの消失経路としての意義は小さいです。ただし、有効成分の母乳中への移行は、乳児に対する副作用の発現という点で軽視できません。

② 消化管で吸収されてから循環血液中に入るまでの間に起こる代謝

経口投与後、消化管で吸収された有効成分は、消化管の毛細血管から血液中へ移行します。その血液は、全身循環に入る前に門脈という血管を経由して肝臓を通過するので、吸収された有効成分は、まず、肝臓に存在する酵素の働きにより代謝を受けることになります。

そのため、全身循環血液中に移行する有効成分の量は、消化管で吸収された量よりも、肝臓で代謝を受けた分だけ少なくなります。これを**肝初回通過効果(first-pass effect)**といいます。

肝機能が低下した人では、医薬品を代謝する能力が低いため、正常な人に比べて、全身に循環する有効成分の量がより多くなり、効き目が過剰に現れたり、副作用を生じやすくなります。

なお、薬物代謝酵素の遺伝子型には個人差があります。また、小腸などの消化管粘膜や腎臓にも、代謝活性があることが明らかにされています。

③ 循環血液中に移行した有効成分の代謝・排泄

代謝の概要】

循環血液中に移行した有効成分は、主として肝細胞の薬物代謝酵素によって代謝を受けます。

しかし、循環血液中に移行した有効成分の多くは、血漿タンパク質と結合して複合体を形成しており、複合体を形成している有効成分の分子は、薬物代謝酵素の作用で代謝されず、また、トランスポーターによって輸送されないため、代謝や分布が制限されます。その結果、有効成分の血中濃度の低下は徐々に起こります。

なお、トランスポーターは、細胞膜の脂質二重層を貫き、埋め込まれて存在する膜貫通タンパク質で、細胞膜の外側から内側へ極性物質、イオンを選択的に運ぶ役割を担っています。

【有効成分と血漿タンパク質との複合体】
有効成分と血漿タンパク質との結合は、速やかかつ可逆的で、一つ一つの分子はそれぞれ結合と解離を繰り返しています。

排泄の概要】

循環血液中に存在する有効成分は、未変化体または代謝物の形で腎臓から尿中に排泄されます。

血漿タンパク質と結合して複合体を形成している有効成分は、腎臓で濾過されないため、有効成分が長く循環血液中に留まることとなり、作用が持続する原因となります。

したがって、腎機能が低下した人では、正常の人よりも有効成分の尿中への排泄が遅れ、有効成分の血中濃度が下がりにくくなり、効き目が過剰に現れたり、副作用を生じやすくなります。

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