禁煙補助薬
喫煙習慣とニコチン置換療法
1. ニコチンの作用
タバコの煙に含まれるニコチンは、肺胞の毛細血管から血液中に取り込まれると、速やかに脳内に到達し、脳の情動を司る部位に働いて覚醒、リラックス効果などをもたらします。
習慣的な喫煙により、喫煙していないと次第に体の調子が悪く感じられるようになり、血中ニコチン濃度の低下によって、いらいら感、集中困難、落ち着かない等の**ニコチン離脱症状(禁断症状)**が現れ、喫煙習慣からの離脱(禁煙)が困難になります。
2. ニコチン置換療法
禁煙を達成するには、本人の禁煙の意思に加えて、ニコチン離脱症状を軽減するニコチン置換療法が有効とされます。
ニコチン置換療法は、ニコチンの摂取方法を喫煙以外に換えて離脱症状の軽減を図りながら徐々に摂取量を減らし、最終的にニコチン摂取をゼロにする方法です。
3. 禁煙補助剤
禁煙補助剤は、ニコチン置換療法に使用される、ニコチンを有効成分とする医薬品です。
① 種類
禁煙補助剤には、以下の2種類があります。
| 剤形 | 作用方法 |
|---|---|
| 咀嚼剤 | 噛むことにより口腔内でニコチンが放出され、口腔粘膜から吸収されて循環血液中に移行する |
| パッチ製剤 | 1日1回皮膚に貼付することによりニコチンが皮膚を透過して循環血液中に移行する |
② 留意事項
(a) 咀嚼剤に関するもの
唾液の影響
咀嚼剤は、菓子のガムのように噛むと唾液が多く分泌され、ニコチンが唾液とともに飲み込まれてしまい、口腔粘膜から十分に吸収されません。また、吐きけや腹痛等の副作用が現れやすくなるため、ゆっくりと断続的に噛むこと、噛みすぎて唾液が出過ぎたときは飲み込まずにティッシュ等に吐き出すこととされています。
大量使用
大量に使用しても禁煙達成が早まるものでなく、かえってニコチン過剰摂取による副作用のおそれがあるため、1度に2個以上の使用は避ける必要があります。
その他
- 顎の関節に障害がある人では、使用を避ける必要があります。
- 口内炎や喉の痛み・腫れの症状がある場合には、口内・喉の刺激感等の症状が現れやすくなります。
(b) 咀嚼剤とパッチ製剤に共通するもの
循環器系への影響
次のような人では、循環器系に重大な悪影響を及ぼすおそれがあるため、禁煙補助剤の使用を避ける必要があります。
- 急性期脳血管障害(脳梗塞、脳出血等)の診断を受けた人
- 重い心臓病(3ヶ月以内の心筋梗塞、重い狭心症や不整脈)等の基礎疾患がある人
一方、次の診断を受けた人では、使用している治療薬の効果に影響を生じたり、症状を悪化させる可能性があるため、禁煙補助剤を使用する前にその適否につき、治療を行っている医師または処方薬を調剤した薬剤師に相談するなどの対応が必要です。
- 脳血管障害(脳梗塞、脳出血等)
- 心臓疾患(心筋梗塞、狭心症、不整脈)
- バージャー病(末梢血管障害)
- 高血圧
- 甲状腺機能障害
- 糖尿病(インスリン製剤を使用している人)
- 咽頭炎、食道炎
- 肝臓病・腎臓病
- 褐色細胞腫
- 胃・十二指腸潰瘍
【バージャー病】
末梢動脈に炎症が生じて、末梢部に潰瘍や壊疽を引き起こす病気。
【ニコチンとインスリンの相互作用】
ニコチンがインスリンの血糖降下作用に拮抗して、効果を妨げるおそれがあります。
うつ症状の悪化
うつ病と診断されたことのある人では、禁煙時の離脱症状により、うつ症状を悪化させることがあるため、使用を避ける必要があります。
胎児・乳児への影響
妊婦または妊娠していると思われる女性、母乳を与える女性では、摂取されたニコチンにより胎児または乳児に影響が生じるおそれがあるため、使用を避ける必要があります。
非喫煙者の誤使用
非喫煙者では、一般にニコチンに対する耐性がないため、吐きけ、めまい、腹痛などの症状が現れやすく、誤って使用することのないよう注意する必要があります。
主な副作用
口内炎、喉の痛み、消化器症状(悪心・嘔吐、食欲不振、下痢)、皮膚症状(発疹・発赤、掻痒感)、精神神経症状(頭痛、めまい、思考減退、眠気)、循環器症状(動悸)、その他胸部不快感、胸部刺激感、顔面紅潮、顔面浮腫、気分不良などが現れることがあります。
4. 相互作用
口腔内が酸性になるとニコチンの吸収が低下するため、コーヒーや炭酸飲料など口腔内を酸性にする食品を摂取した後しばらくは使用を避けることとされています。
ニコチンは交感神経系を興奮させる作用を示し、アドレナリン作動成分が配合された医薬品(鎮咳去痰薬、鼻炎用薬、痔疾用薬等)との併用により、その作用を増強させるおそれがあります。
禁煙補助剤は、喫煙を完全に止めた上で使用することとされており、特に、使用中または使用直後の喫煙は、血中のニコチン濃度が急激に高まるおそれがあり、避ける必要があります。また、他のニコチン含有製剤が併用された場合も、同様にニコチンの過剰摂取となるおそれがあります。
5. 禁煙達成へのアドバイス
禁煙に伴ういらいら感、集中困難、落ち着かないなどのニコチン離脱症状は、通常、禁煙開始から1〜2週間の間に起きることが多いとされています。
日常生活の中では、日々感じるストレスに対して、喫煙以外のリラックス法を実践すること、スポーツ、散歩、趣味等のタバコを忘れる努力をすることなどが有益とされます。
禁煙補助剤によりニコチン離脱症状を軽減しながら、徐々にその使用量を減らしていくこととし、初めから無理に減らそうとしないほうが、結果的に禁煙達成につながるとされます。
ただし、禁煙補助剤は長期間にわたって使用されるべきものでなく、添付文書で定められた期限を超える使用は避けるべきであるとされています。
6. 受診勧奨
医薬品の販売等に従事する専門家においては、禁煙補助剤の使用により禁煙達成が困難なほどの重度の依存を生じている場合には、ニコチン依存症の治療を行う禁煙外来の受診を勧めることも考慮に入れるべきです。