歯や口中に用いる薬
歯痛薬(外用)
1. 歯痛と歯痛薬
歯痛は、多くの場合、歯の齲蝕(むし歯)とそれに伴う歯髄炎によって起こります。
歯痛薬は、歯の齲蝕による歯痛を応急的に鎮めることを目的とする一般用医薬品です。歯痛薬によって歯の齲蝕が修復されることはなく、早めに医療機関(歯科)を受診して治療を受けることが基本となります。
2. 配合成分
① 局所麻酔成分
齲蝕により露出した歯髄を通っている知覚神経の伝達を遮断して痛みを鎮めることを目的として、アミノ安息香酸エチル、ジブカイン塩酸塩、テーカイン等の局所麻酔成分が用いられます。
② 冷感刺激成分
冷感刺激を与えて知覚神経を麻痺させることによる鎮痛・鎮痒の効果を期待して、メントール、カンフル、ハッカ油、ユーカリ油等の冷感刺激成分が配合されている場合もあります。
③ 殺菌消毒成分
作用
齲蝕を生じた部分における細菌の繁殖を抑えることを目的として、フェノール、歯科用フェノールカンフル、オイゲノール、セチルピリジニウム塩化物等の殺菌消毒成分が用いられます。
留意事項
粘膜刺激を生じることがあるため、歯以外の口腔粘膜や唇に付着しないよう注意が必要です。
④ 生薬成分
サンシシは、アカネ科のクチナシの果実で、ときには湯通しまたは蒸したものを基原とする生薬で、抗炎症作用を期待して用いられます。
3. 相互作用
歯痛薬(外用)の場合、口腔内に食べ物のかすなどが残っている状態のままでは十分な効果が期待できず、口腔内を清浄にしてから使用することが重要です。また、口腔咽喉薬、含嗽薬などを使用する場合には、十分な間隔を置くべきです。
4. 受診勧奨
歯痛は歯の齲蝕等に対する生体の警告信号であり、歯痛薬の使用によって一時的に和らげることができたとしても、その繰り返しによってやがて歯髄組織が壊死し、状態の悪化につながるおそれがあります。
歯の齲蝕のほか、第三大臼歯(親知らず)の伸長による痛みも歯痛として認識されることがありますが、第三大臼歯の伸長による痛みの場合、歯痛薬(外用)の効果は期待できません。
歯痛は基本的に歯科診療を受けることが優先され、歯痛薬による対処は最小限(旅行中や夜間など、歯科診療を受けることが困難な場合)にとどめる必要があります。
歯槽膿漏薬
1. 歯槽膿漏と歯槽膿漏薬
歯と歯肉の境目にある溝(歯肉溝)では細菌が繁殖しやすく、歯肉に炎症を起こすことがあります。歯肉炎が重症化して、炎症が歯周組織全体に広がると**歯周炎(歯槽膿漏)**となります。
歯槽膿漏薬は、歯肉炎、歯槽膿漏の諸症状(歯肉からの出血や膿、歯肉の腫れ、むず痒さ、口臭、口腔内の粘り等)の緩和を目的とする医薬品です。
患部局所に適用する外用薬のほか、内服で用いる歯槽膿漏薬もあります。内服薬は、抗炎症成分、ビタミン成分等が配合されたもので、外用薬と併せて用いると効果的です。
2. 外用の歯槽膿漏薬の配合成分
① 殺菌消毒成分
作用
歯肉溝での細菌の繁殖を抑えることを目的として、セチルピリジニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩、イソプロピルメチルフェノール、チモール等の殺菌消毒成分が配合されている場合があります。
殺菌消毒作用のほか、抗炎症作用なども期待して、ヒノキチオールやチョウジ油(フトモモ科のチョウジの蕾または葉を水蒸気蒸留して得た精油)が配合されている場合もあります。
留意事項
クロルヘキシジングルコン酸塩が口腔内に適用される場合、まれに重篤な副作用として**ショック(アナフィラキシー)**を生じることがあります。
② 抗炎症成分
作用
歯周組織の炎症を和らげることを目的として、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルレチン酸等が配合されている場合があります。
留意事項
口腔内に適用されるため、ステロイド性抗炎症成分が配合されている場合には、その含有量によらず長期連用を避ける必要があります。
③ 止血成分
炎症を起こした歯周組織からの出血を抑える作用を期待して、カルバゾクロムが配合されている場合があります。
④ 組織修復成分
炎症を起こした歯周組織の修復を促す作用を期待して、アラントインが配合されている場合があります。
⑤ 生薬成分
カミツレ、ラタニア、ミルラ等の生薬成分が配合されている場合があります。
生薬成分の概要
| 生薬名 | 基原 | 作用 |
|---|---|---|
| カミツレ | キク科のカミツレの頭花を基原とする生薬である。 | 抗炎症、抗菌などの作用を期待して用いられる。 |
3. 内服の歯槽膿漏薬の配合成分
① 抗炎症成分
歯周組織の炎症を和らげることを目的として、グリチルリチン酸二カリウムが用いられます。
② 止血成分
炎症を起こした歯周組織からの出血を抑える作用を期待して、カルバゾクロムや、血液の凝固機能を正常に保つ働きがある**フィトナジオン(ビタミンK)**が配合されている場合があります。
③ 組織修復成分
炎症を起こした歯周組織の修復を促す作用のほか、歯肉炎に伴う口臭を抑える効果も期待して、銅クロロフィリンナトリウムが配合されている場合があります。
④ ビタミン成分
| ビタミン | 主な成分名 | 作用 |
|---|---|---|
| ビタミンC | アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム等 | コラーゲン代謝を改善して組織の修復を促す。また、毛細血管を強化して炎症による腫れや出血を抑える効果を期待する。 |
| ビタミンE | トコフェロールコハク酸エステルカルシウム、トコフェロール酢酸エステル等 | 歯周組織の血行を促す効果を期待する。 |
4. 相互作用
外用の歯槽膿漏薬の場合、口腔内に食べ物のかすなどが残っている状態のままでは十分な効果が期待できず、口腔内を清浄にしてから使用することが重要です。また、口腔咽喉薬、含嗽薬などを使用する場合には、十分な間隔を置くべきです。
内服で用いる歯槽膿漏薬については、同じまたは同種の成分が配合された医薬品(かぜ薬、鎮咳去痰薬、胃腸薬等)が併用された場合、作用が強すぎたり、副作用が現れやすくなるおそれがあります。
5. 受診勧奨
歯周病(歯肉炎・歯槽膿漏)については、状態が軽いうちは自己治療が可能とされますが、日頃の十分な歯みがき等によって歯肉溝での細菌の繁殖を抑えることが重要です。
ただし、一般の生活者においては、十分な歯みがきがされたかどうかの判断は必ずしも容易でなく、また、歯石の沈着等によって歯周病が慢性化しやすくなっている場合もあります。
歯槽膿漏薬の使用により症状を抑えられても、しばらくすると症状が繰り返し現れるような場合には、医療機関を受診するなどの対応が必要です。
口内炎用薬
口内炎用薬は、口内炎、舌炎の緩和を目的として口腔内局所に適用される外用薬です。
1. 口内炎、舌炎
口内炎や舌炎は、いずれも口腔粘膜に生じる炎症で、代表的な口腔疾患です。口腔の粘膜上皮に水疱や潰瘍ができて痛み、ときに口臭を伴います。
発生の仕組みは必ずしも解明されていませんが、栄養摂取の偏り、ストレスや睡眠不足、唾液分泌の低下、口腔内の不衛生などが要因となって生じることが多いとされます。
また、疱疹ウイルスの口腔内感染による場合や、医薬品の副作用として口内炎を生じる場合もあります。
2. 配合成分
① 抗炎症成分等
作用
口腔粘膜の炎症を和らげることを目的として、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルレチン酸等の抗炎症成分が用いられます。
また、口腔粘膜の組織修復を促す作用を期待して、**アズレンスルホン酸ナトリウム(水溶性アズレン)**が配合されている場合もあります。
留意事項
口腔内に適用されるため、ステロイド性抗炎症成分が配合されている場合には、その含有量によらず長期連用を避ける必要があります。
② 殺菌消毒成分
患部からの細菌感染を防止することを目的として、セチルピリジニウム塩化物、クロルヘキシジン塩酸塩、アクリノール、ポビドンヨード等が配合されている場合があります。
③ 生薬成分
シコンは、ムラサキ科のムラサキの根を基原とする生薬で、組織修復促進、抗菌などの作用を期待して用いられます。
3. 茵蔯蒿湯(内服の漢方処方製剤)
① 適応
体力中等度以上で、口渇があり、尿量が少なく、便秘するものの蕁麻疹、口内炎、湿疹・皮膚炎、皮膚の痒みに適すとされます。
体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)、胃腸が弱く下痢しやすい人では、激しい腹痛を伴う下痢等の副作用が現れやすい等、不向きとされます。
② 留意事項
構成生薬としてダイオウを含みます。まれに重篤な副作用として肝機能障害が起こることが知られています。
短期間の使用に限られるものではありませんが、1週間位使用しても症状の改善がみられないときは、いったん使用を中止して専門家に相談するなどの対応が必要です。
4. 相互作用
口腔内を清浄にしてから使用することが重要であり、口腔咽喉薬、含嗽薬などを使用する場合には、十分な間隔を置くべきです。
5. 受診勧奨
① 食事に著しい支障を来す場合
口内炎や舌炎は、通常であれば1〜2週間で自然寛解しますが、一度に複数箇所に発生して食事に著しい支障を来すほどの状態であれば、医療機関を受診するなどの対応が必要です。
② 症状が長引く、再発を繰り返す場合
口内炎や舌炎が長期間にわたって症状が長引いている場合には、口腔粘膜に生じた腫瘍である可能性もあります。また、再発を繰り返す場合には、ベーチェット病などの可能性も考えられますので、医療機関を受診するなどの対応が必要です。
【ベーチェット病】
口腔粘膜の潰瘍を初期症状とする全身性の疾患で、外陰部潰瘍、皮膚症状(全身の皮膚に湿疹や小膿疱ができる)、眼症状(炎症を起こし、最悪の場合失明に至る)等を引き起こします。
③ 他の医薬品を使用している場合
何らかの疾病のため医療機関で治療を受けている人では、処方された薬剤による副作用である可能性も考慮し、治療を行っている医師または処方薬の調剤を行った薬剤師に相談するなどの対応が必要です。
医薬品の販売等に従事する専門家の対応
一般用医薬品にも副作用として口内炎等が現れることがあるものがありますが、一般の生活者においては、それが副作用による症状と認識されずに、口内炎用薬による対処を図ろうとすることも考えられます。
医薬品の販売等に従事する専門家においては、口内炎用薬を使用しようとする人における状況の把握に努めることが重要です。